がんや緩和ケアなどに関する情報をわかりやすく説明します。

緩和ケア

1、緩和ケアとは

緩和ケアとは、「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」とWHO(世界保健機関)は定義しています。
がんと診断された患者は、さまざまな苦痛を抱えています。苦痛には、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛の4つがあると言われています。(図を参照)これら4つを合わせて全人的苦痛と表現し、互いに影響し合って患者の苦痛を形成しています。すなわち『緩和ケア』とは、全人的苦痛に対してさまざまな方法で対処し、つらさや症状を和らげ、自分らしい生活を送れるようにすることであり、緩和ケアを受けることは、生活を守り、自分らしさを保つことにつながります。

<緩和ケアを受ける時期>

緩和ケアというと、できる治療がなくなってから受けるもの、と思っている人もいるかもしれませんが、治療中でも早い段階から受けることができます。緩和ケアを受けることで苦痛が和らぎ、治療を継続することができるのです。

<緩和ケアはどこでも受けられます>

入院・外来、在宅療養などの場を問わず、いずれの状況でも受けることができ、さまざまな専門職のチームで行います。病院の場合、病院によって違いはありますが、緩和ケア専門の医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、心理士等がいます。自宅での場合も、専門的な知識を持った訪問医や訪問看護師、薬剤師、ホームヘルパーなどが協力してサポート態勢を整えます。

2、「自分らしい過ごし方」を支える緩和ケア

「自分らしさ」は人それぞれです。がんであっても仕事は続けたい、できるだけ旅行に行きたい、家族と過ごす時間を最優先したい等、自分ががんと共にどのような生活をしたいのかを描いてみることから始めませんか。

<身近な人と共有しましょう>

がんの療養生活の中でも自分らしい生活を続けるためには、家族や友人、医療者等身近な人へ、どのように過ごしていきたいか自分の思いを伝えることが大切です。家族に迷惑をかけてしまうのではないか、受け入れてもらえるだろうか、と心配になるかもしれません。しかし、家族や身近な人もまた、患者にとって一番よい治療や生活を考えています。お互いに思い合うからこそのすれ違いも起こりやすいため、それぞれが自分の思いを伝え合うことが必要です。

<自分も緩和ケアチームの一員>

緩和ケアチームには医師や看護師だけでなく、さまざまな職種がいます。食べたい思いを叶えるためには栄養士が、安全に歩く、動くためには理学療法士が、経済的なことや家族関係のこと等には医療ソーシャルワーカーや心理士が、それぞれの専門的知識を持ち寄ります。
病気の段階の変化、その時の体調によっては、「自分らしさ」が変化することもあります。そんな時も緩和ケアチームはさまざまな対処を一緒に考え、あなたを支えてくれます。

がんとこころ

1、がんを自分のこととして考えてみませんか

<がんと告げられた時の心の変化>
日本人の2人に1人が、人生のどこかでがんになる可能性があります。身近にがんの人がいないと「自分には関係ない」と思うことも当然です。かつては「不治の病」と思われていたがんも、治療の進歩により「共存していく慢性の病気」に変わり、がんの治療を受けながら仕事や通常の社会生活をしている人は多くいます。がんと告げられると衝撃を受け「なんで、私が」「何が悪かったのか」とがんを認めたくない気持ちが強くなり①ショック・混乱②不安・落ち込み③時間が経つにつれ少しずつ和らいでいく過程が誰にでも起こります。
辛い気持ちを一人で抱え込まないことが大切で、家族や友人等に話すと気持ちが少し楽になるでしょう。心が落ち着くまでには時間が必要です。何も手につかない、不眠や食欲不振が続くときは、思い切って心の専門家に相談しましょう。

<基本的な情報を事前に知っておくことが大切>
がん在宅緩和ケア支援センターでは、冊子・書籍・マンガ・絵本等でがんに関する情報(がん検診・がんの成り立ち・標準治療・病気との向き合い方等)を閲覧できます。治療に伴うケアとしてウィッグや栄養補助食品サンプルに触れることもできます。この先、自分や身近な人が、がんになるかもしれません。事前に知ることで、もしもの時の心の準備にもなります。

2、治療も過ごし方も納得して選びましょう

一人一人の人生が違うように、がんとの向き合い方もそれぞれです。やみくもにがんを恐れず、自分らしい人生を送るために必要なことは、次のとおりです。

(1)自分の状態を知ること
病気の状態や治療内容、療養期間、副作用等治療の流れを把握すること、理解することが重要です。

(2)医療者との対話
心配事は遠慮しないで聞き、希望は必ず伝えましょう。対話を重ねていくことで信頼関係はつくられます。不安や分からないことを伝えることで、自分らしくいることができます。

(3)ストレスの対処法
自分の心に正直に、疲れたと感じたときは休みましょう。音楽や深呼吸等自分がリラックスできる方法を活用しましょう。

(4)相談窓口を活用しましょう
つらい気持ちを一人で我慢しすぎないことが重要です。がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」や、地域の「がん在宅緩和ケア支援センター」等相談の場所があります。治療や生活、仕事、お金のこと等の不安な思いを聴き、一緒に考えます。利用できる制度や地域の相談窓口等も紹介します。

(5)病気であっても健やかに過ごす
治療により、今までできていたことができなくなることはつらいことです。今できることに目を向け、何気ない日常生活が送れることを大切にしてみませんか。

家族も「第二の患者

がんと診断されると、治療や今後の生活のこと等、さまざまな選択や決断をしなくてはいけません。家族は患者のサポートが生活の中心となり、自分の抱えている心身の問題を見過ごしてしまうことがあります。患者と共に揺れる家族もまた「第二の患者」であり、ケアの対象になるのです。

家族が抱える思い
患者の前では普段通り振る舞うことを心掛ける家族もいます。しかし、心の奥には何もしてあげられない無力感や自責の思い、大切な家族を失うかもしれない不安、恐怖等さまざまな感情を抱えています。それは、誰にでも起こりうる自然な感情です。

家族が自分でできる心のケア
家族の体と心が疲れ果ててしまわないように、自分に合ったケア方法を見つけてみませんか。朝食をしっかり食べる、一日10分歩く、読書や好きな音楽を聴く、日記を書く等、自分のためだけの時間を過ごしてみましょう。

地域の支援者をみつける
地域には、医師、看護師、理学療法士、薬剤師、ケアマネジャー等の在宅療養を支える専門家や心療内科医等がいます。がん在宅緩和ケア支援センター(ういケアみなと)には、看護師の他に医療ソーシャルワーカーもいます。ゆっくりと話を聞くことや、活用できる公的なサービスについての相談もできます。

がん治療と仕事の両立【基本のキ】

「働きながら病気の治療を受けるときのコツ」

「ワーク・ライフ・バランス(仕事と暮らしのバランス)」という言葉はよく聞きますが、近年「仕事と治療のバランス」も注目されていることをご存じでしょうか?
仕事は収入の糧であるだけでなく、私たちに生きがいや満足感をもたらしてくれます。病気になっても治療を受けながら仕事を続ける人は多く、がんも例外ではありません。
日本人の二人に一人は人生のどこかでがんと診断されますから、がんはとても身近な病気です。かつては「不治の病」とみなされていたがんも、治療の進歩により、今は「長くつきあう慢性病」に変化しつつあります。
とはいえ、がんと診断されると誰でも驚きます。まずは、大きく深呼吸をしてみましょう。一番大事なのは、慌てないことです。

さて、治療をしながら仕事を続けようとするとき、実践できる大切なポイントを3つご紹介します。

① 今、自分が持っている権利を確認しましょう
多くの事業場には、労働条件や社内の規律を定めた就業規則というルールがあります。普段すみからすみまで読むことは少ないため、病気になったときの休暇や給与の決まり事をよく知らない人がほとんどです。社員としての自分の権利を、まず確認しましょう。わかりにくいようなら、上司や人事労務担当者に問い合わせるとよいでしょう。

② 職場に状況を説明して理解を得ましょう
おおよその治療スケジュールや予想される副作用などを、職場に説明しましょう。この先2-3か月の見通しで十分です。状況がわかれば、上司や人事も一緒に対応を考えやすくなります。「職場に正直に病気を伝えても大丈夫だろうか?」という心配もあるでしょう。もし今までとまったく同じように働けるなら、伝える必要はないかもしれません。ただ、病気のために休暇が必要になったり、一時的にせよ何か配慮が欲しい場合には、信頼できる職場関係者に相談しておいたほうが、長い目で見れば楽かもしれません。職場内で病気を知らせる人の範囲も考えておくとよいでしょう。

③ できないことだけでなく、できることを考えましょう
体力が落ちているときでも、無理なくできる仕事もあります。状況に応じて職場に貢献する方法を考えてみましょう。

この10年ほどの間に、病気を治療しながら仕事が続けられるよう、職場や医療機関の取り組みが進んできました。もし勤務先に産業医や産業看護職がいたら、ぜひ相談してみましょう。また、病院には患者さんの困りごとの相談窓口があり、医療機関によっては働く患者さんに対応する専門職も配備しています。院内のどこで相談できるのか、スタッフに場所を聞いてみましょう。

<役に立つ資料>
がんと仕事のQ&A 第3版 (国立がん研究センター「がん情報サービス」から無料閲覧・ダウンロード可能)
https://ganjoho.jp/public/support/work/qa/

がん治療と仕事の両立【病院編】

がんの治療を外来で行うことも多くなりました。最近は通院をしながら働く人が増えています。病院には、働き方や医療費の相談にのってくれる窓口もありますので、ぜひ利用してみましょう。

相談窓口について

病院によって相談窓口の名称が異なります。相談窓口の場所は、各病院の医療スタッフや会計窓口等に尋ねてみてください。医療ソーシャルワーカー等が個別相談に応じてくれます。病院によっては社会保険の専門家である社会保険労務士や、職探しの相談にのるハローワークのスタッフによる専門相談サービスもあります。通院する病院に専門相談サービスがなくても、都内の別の病院で相談できることもあります。

さまざまなスタッフに相談してみましょう

職場に提出する診断書や意見書等は医師が書きます。病院には他にも、看護師、薬剤師、管理栄養士等がいます。働き方に応じた薬の副作用への対処、職場での作業を考えたリハビリ、職場での食事の仕方等について、相談してみましょう。

がん治療と仕事の両立【実践編】

がんの治療を外来で行うことも多くなりました。最近は通院をしながら働く人が増えています。実際に仕事と治療を両立した人の体験談や、それを支えた会社の事例は、ご本人と会社の両方に向けて、とても参考になります。

国立がん研究センターがん対策情報センターの「がんと共に働く」プロジェクトのページでは、さまざまながんと診断された25名の方々の詳しい体験談と、ご本人の上司や同僚、会社の産業医等による支援や対応の工夫を読むことができます。また、企業向けの両立支援ガイドブックをダウンロードできます。(このプロジェクト自体は終了していますが、2021年6月末まで体験談等の記録をホームページから読むことができます。)

https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/work_with_cancer




「がんと共に働く 知る・伝える・動きだす」
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また、厚生労働省は「治療と仕事の両立支援ナビ」というポータルサイトを公開しています。事業場の規模や業種別の具体的な取り組み事例を紹介しているので、会社として取り組む際の参考になるでしょう。

https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp




「治療と仕事の両立支援ナビ」ポータルサイト
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がん制度大学

がん制度大学運営委員会
https://www.youtube.com/@user-yy9rf1ey4q

がんとお金・制度の話

がんの治療とお金
がんになるとお金が高額にかかるのではないかと心配される方も多いのではないでしょうか。がんの場合でも他の病気と同じく、公的医療保険や支援制度により負担が軽減されるしくみがあります。標準的な治療(検査代、入院料、手術代、放射線治療費、薬代など)については公的医療保険が適用となります。それ以外にかかるお金としては、先進医療や差額ベッド代、入院時の食事療養費、入院・通院時の交通費などがあります。

利用できる制度と相談窓口

傷病手当金の制度改正について
傷病手当金は被用者保険(全国健康保険協会、健康保険組合等)の被保険者本人が病気などで休職した際の生活保障です。これまでは支給期間が「支給開始日から1年6か月間」でしたが、令和4年1月から「実際に支給された期間が通算1年6か月分」に改正され、支給開始後に復職された就労期間は日数の算定から除外されるなど、治療と仕事の両立の観点から、より柔軟な所得保障ができるようになりました。

どこに相談したらいいのかわからないとき
がんの治療や療養に必要なお金、利用できる制度などについて「どこに相談したらいいのかわからない」というときには、がん相談支援センターや各医療機関の患者相談窓口・ソーシャルワーカー、地域ではがん在宅緩和ケア支援センター「ういケアみなと」に相談することができます。

「ういケアみなと」では、がんに関する相談を看護師だけでなくソーシャルワーカーも受けています。

外見が変化したときに

がん患者は治療の影響で、脱毛や皮膚のくすみ、皮疹、爪の変形・変色、手術による傷跡など、さまざまな外見の変化を体験しています。そのことにより、元の自分とは変わってしまい、自分らしくないと感じることがあります。また、外見が変化したことで人からどう思われるか、今までどおり人と接することができるか不安になることがあります。このようながん治療に伴う外見の変化に対するケアを「アピアランスケア」といい、女性だけでなく男性から子どもまで、外見の変化が気になるすべての患者を対象としています。

<爪の変化の場合>

抗がん剤治療による変化として黒ずみや凹凸、割れやすくなるなど、使用する薬剤の種類や期間によりさまざまな変化があります。爪は自分が毎日目にするため、他の人からの見た目も気になり、気持ちが落ち込む要因の1つとなります。そこでアピアランスケアでは、保湿オイルの選び方や使い方、爪の状態に合わせた爪切りやヤスリの使い方など、その人に合った方法を一緒に考えます。また、変色した爪をカバーするネイルカラーをするだけでも、気持ちが晴れることがあります。

<始める時期>

治療前から保湿などのケアを行うことで、変化を軽減することができると言われていますが、治療中や治療後など、変化が出てからでも遅くはありません。少しの工夫で周囲の目が気にならなくなる、気分が軽くなる、自分らしさを実感できるなど、前向きな気持ちを生み出すきっかけになります。

<脱毛の場合>

脱毛は薬物療法を行う患者の6~8割に生じると言われますが、使用する薬剤の種類や投与量、投与スケジュールによって異なります。一般的に投与開始1~3週間後から脱毛が始まり、頭髪だけでなく、まつ毛、眉毛、鼻毛、ひげ、陰毛にも生じます。脱毛は通常一過性で、薬物療法終了後3~6か月で再発毛がみられますが、脱毛する前の毛髪と異なり、縮毛や白髪の場合があります。髪質の変化も通常一過性ですが、永久的な変化として残る場合もあります。また脱毛は、がん患者が薬物療法中に感じた苦痛のなかでも上位に入り、外見の変化は社会的・心理的にも大きな影響を与えます。

<自分にあったスタイルをみつける>

頭髪の脱毛の対処としてはウィッグや帽子になりますが、一番大事なことは「自分にあった」ものであることです。特にウィッグは着け心地やスタイル、価格など様々なものがあります。そのため、いくつかの製品を着け比べ、好みにあう製品を選ぶことをお勧めします。購入したウィッグは、自分に合わせて前髪をカットしたり毛量を減らすなどの調節をして、より自分にあったスタイルにすることができます。
結婚式・成人式・入学式・卒業式などのライフイベントにもウィッグをアレンジすることができます。

  
写真提供
一般社団法人アピアランスサポート東京

<相談できる場所>

病院の看護師やがん相談窓口で相談することができます。ういケアみなとでは、月2回専門のアドバイザーが外見ケアの相談を受けています。脱毛だけでなく、爪や皮膚の変化に対しても相談することができます。話を聞いておくことで安心できることもあります。「こんなこと聞いていいのかな?」と思ったときでも、一度相談してみましょう。

<購入費用助成制度>

港区では、がん治療による脱毛のためのウィッグや、乳がんの手術後のための胸部補整具の購入費用を一部助成しています。金額は3万円または購入費用の7割のいずれか低い額で、1人につき1回限りです。詳しくは、港区ホームページをご覧ください。
https://www.city.minato.tokyo.jp/kenkouzukuri/appearance.html