日本人の2人に1人は、一生のどこかでがんと診断されるといわれるように、がんは「身近な病気」です。また、医療の進歩により、今は「長くつきあう病気」に変わりつつあります。しかしながら、がんと診断されると「まさか、私が」「これからどうなるの」と動揺し、落ち込むのは自然な反応です。大事なことは、不安や悩みをひとりで抱え込まず、家族や信頼できる友人、医療者など誰かにその思いを話すことです。
<頼れる人や場所があります>
自分の人生に思いがけずがんが入り込むと、治療のこと、仕事、家族、これからの生活、お金の問題など不安や悩みを抱えます。そんな時に、頼れる場所として、がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」や地域の「がん在宅緩和ケア支援センター」などがあります。
「がん相談支援センター」は、その病院に通っていなくても、家族でも、匿名でも相談ができる場所です。また、がん診療連携拠点病院には、体や心、経済的問題など様々なつらさを和らげるための緩和ケアチームがあります。そのチームには医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、リハビリテーション専門士、薬剤師、栄養士などの専門職が集まっています。緩和ケアは、診断された時から治療と並行して始まるもので、安心して治療に専念でき自分らしく生活していくことを支えていくためのものです。
さらに港区には、がん在宅緩和ケア支援センター(ういケアみなと)があります。相談を受け一緒に考える場所です。病院に行く前でも、病院で話を聞いた後でも、不安に感じたこと、気になっていることなどもやもやした気持ちを話せる場です。
<あなたらしい生活を送るために必要なこと>
1,正しい情報を得る
まずは、自分の病気を知ることが大事です。がんの種類が同じでも、人によって経過は違います。信頼できる正しい情報は、国立がん研究センター「がん情報サービス」で検索でき、病気の概要・治療内容・副作用・生活への影響など調べることができます。正しい情報を得ることで、病気の理解を深め、自分の身に起きている現状を知ることができます。がんを受け入れ、認めることは簡単なことではありません。不安な気持ちから、インターネットで調べたくなりますが、情報に振り回され混乱することが多いので注意が必要です。
2,医療者とのコミュニケーション
治療や過ごし方を納得して選ぶために、まずは医師からの説明をしっかり聞きましょう。「標準治療」と説明された時、標準という言葉から並みの治療と捉えてしまう人が多いのですが、「標準治療」とは現時点で科学的根拠に基づく「最善・最適な治療」のことです。説明でわからなかったこと、気になることなどは、些細なことであっても医師に質問してください。治療に対する自分の思い・希望は必ず伝えましょう。治療を決めるのはあなた自身です。
治療中、副作用のつらさを感じた時は我慢し過ぎないで医師や看護師に伝えることが大事です。患者が感じるさまざまな苦痛は、治療を進める上で必要不可欠な情報です。
3,「自分にとって安心できる場所」を見つける
がんになったことやその治療にはつらさがつきまといます。心配なことがあっても家族や友人に遠慮して自分の気持ちを話せない人は多くいます。誰にも気を遣うことなく自分の事を話せる場所があると、少し気持ちが楽になるかもしれません。港区立がん在宅緩和ケア支援センターでは、がん患者さんやご家族が気兼ねなく立ち寄れる「くつろぎカフェ」を毎月開催しています。似た経験をした人同士語り合い、交流できる場所です。何気ない会話から気持ちが整理できたり、抱えている問題を解決するためのヒントを自ら見出すことができて、前向きな気持ちになれるかもしれません。また、がんをきっかけに、人との縁が繋がることもあります。
4,自分の気持ちに正直になる
病気になって良かったと思える人ばかりではありませんが、病気をきっかけに「これだけは頑張りたい」「こんな風に過ごせれば幸せ」「これはやりたくない」など本当に大切にしたいことは何かがみえてきます。自分の生き方を、命を、考える機会をもらった、何気ない日常に感謝しているという人も少なくありません。何気ない風景や、木々や花、空などの自然の美しさやたくましさに季節を感じ、癒されることもあります。とはいえ、ネガティブな感情が沸き上がってきてもおかしくはありません。ありのままの感情を受けとめ、自分なりのリラックスタイムを過ごしてください。
がんと向き合うとは、揺れながらも自分なりの生き方を見つけていくことなのではないでしょうか。その過程でさまざまな人と出会い、人は人によって支えられ、自分らしさや自分自身の力を取り戻し、自分で選んだ人生を、今を、大事に生きていこうと思えるようになるのだと思います。